大判例

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東京高等裁判所 昭和30年(く)45号 判決

よつて申立人に対する公職選挙法違反被告事件記録を精査して按ずるに、申立人は昭和三〇年二月二七日施行の衆議院議員総選挙に際し長野県第三区から立候補した宮沢胤勇の選挙運動に従事していたものであるが、同候補者に当選を得しめる目的を以て昭和三〇年一月二四日飯田市中央通日本民主党飯田下伊那支部事務所において同候補者の選挙運動者である熊谷清逸に対し同候補者のため投票取纏め等の選挙運動方を依頼しその報酬として現金一万円を供与したものであるとの公訴事実によつて昭和三〇年三月二八日起訴され、長野地方裁判所飯田支部において裁判官宗田義久係のもとに公判審理が為されているうち、同一裁判官係による熊谷清逸に対する公職選挙法違反被告事件(前記申立人に対する公訴事実に照応する申立人から金一万円の供与を受けたという事実)につき昭和三〇年五月二五日同裁判官が有罪判決を言渡したものであること、申立人は右被告事件につき公判廷において公訴事実を否認していること及び第四回(昭和三〇年六月二日)公判廷において申立人から宗田裁判官忌避の申立が為されたのに対し同裁判官は所論の如き理由によつてこれを却下したものであることを認めうるのである。

ところで、公職選挙法違反における所謂買収費の供与者と供与を受けた者(被供与者)とが同一裁判所に別々に起訴されたが同一裁判官がこれを審理することになつたところ、これを併合審理せず、分離したまま別々に審理をするような場合に、一方の審理が早く進み、他方の審理は遅れているような場合でも、例えば一方の弁論終結間際に他方が起訴されたというような特別の事情のない限りは判決の言渡はなるべく同一日時に為すのを妥当とするものと解せられる。しかし一方を先に審理し、他方を審理している最中に前者に対し有罪判決を言渡しても勿論これは法の禁止するところではなく、又このことは審理をうけている者に対する事件につきその裁判官の除斥原因ともならないのであることは刑事訴訟法第二〇条の規定によつて明白である。

而して申立人は申立人から供与をうけたという者が有罪になつたのであるから、同一裁判官である以上申立人も当然供与したものと認められ、有罪判決を受けること間違なしと思い込んで不公平な裁判をうける虞があると考えているのであろうが、裁判官は良心と法律に従つて証拠を判断して事実を認定するのであるから本件のように被供与者に対し有罪判決をしたからというて、供与者に対しても当然有罪の判決をするものとはきまつてはいないのである。もつとも被供与者に対し有罪判決をしたという事実のみによつて供与者に対する証拠を十分に取り調べることもなく判決しようとする如き情況が発生すれば、これはもとより予断に基く不公正な裁判をする虞ある場合というべきである。しかし乍ら正当な手続によつて十分証拠を取り調べ、その結果有罪判決となつてもこれは不公平な裁判をしたことにも、予断による裁判ともならないのである。右申立人に対する公職選挙法違反事件記録を仔細に検討しても宗田裁判官が申立人に対する証拠を十分取り調べることなく被供与者熊谷清逸を有罪と認定したという事実から申立人に対しても同一判断をしようとしているという情況の片鱗すら発見できないのである。しからば宗田裁判官が申立人に対し不公平な裁判をする虞あるものとは毫も認め得ないところであり、要するに本件忌避申立は全く理由のないものであつて、このような状況の下に裁判官の忌避申立を為した場合には審理の遅延のみを目的として為されたものと認められても止むを得ないのである。

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